Leading Author ~学会受賞者~

第7回日本骨免疫学会
優秀演題賞紹介

滑膜フェノタイプに基づく日本人関節リウマチ患者の層別化

吉原理紗1、土屋遥香1、小俣康徳2、高橋悠1、内尾明博2
前之原悠司2、松本卓巳2、原田広顕1、庄田宏文1、田中栄2
岡村僚久3、藤尾圭志1
1東京大学大学院医学系研究科アレルギー・リウマチ学,
2東京大学大学院医学系研究科整形外科学,
3東京大学大学院医学系研究科免疫疾患機能ゲノム学講座

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日本人関節リウマチ(RA)患者を層別化し精密化医療にむけた基盤を構築することを目的として、RA患者15例の滑膜生検検体から生細胞を分取しsingle cell RNA seqを行い、シングルセルレベルの遺伝子発現情報と臨床情報を統合的に解析した。Uniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)により滑膜内の細胞は合計24個の細胞集団に分類され、各集団の割合情報をもとに階層的クラスタリングを実施することで15症例は4つの群(A群: Naïve CD4+ T・NK優位, B群:SPP1+/MERTK+ macrophage・proliferating T優位, C群:follicular helper T・ regulatory T・B優位, D群: EM/CM CD8+ T・peripheral helper T like cells・IFNG+ CD8+ T優位)に分けられた。B群において増加していたSPP1+/MERTK+ macrophage, proliferating Tは血管増生因子を産生しており、NOTCH3+ fibroblastsとの相関がみられたことから、血管増生を中心としたフェノタイプである可能性が示唆された。今後、生検滑膜のシングルセルレベルでの情報集積により日本人RA患者の滑膜フェノタイプに基づく層別化・治療反応性予測に繋がる可能性が期待される。
論文キーワード:関節リウマチ、滑膜生検、滑膜線維芽細胞

著者コメント:
この度は、貴重な発表の機会を頂き、誠にありがとうございました。COVID-19感染症流行の中、久しぶりに多くの先生方との対面での交流ができ、自身の研究に向けて気持ちを新たにすることができました。今後も、RA滑膜の研究に従事し、臨床面に役立てていけるよう邁進して参ります。

自己免疫疾患の腸内細菌叢・ウイルス叢解析

友藤嘉彦1、岸川敏博1、前田悠一1、小河浩太朗1、新居卓朗1
奥野龍禎1、猪頭英里1、木下允1、山本賢一1、曽根原究人1
元岡大祐2、中村昇太2、望月秀樹1、竹田潔1、熊ノ郷淳1、岡田随象1
1大阪大学大学院医学系研究科,
2大阪大学微生物研究所

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腸内微生物叢は免疫反応や代謝応答に密接に関わっており、一部の自己免疫疾患の発症に寄与することが知られている。しかし、自己免疫疾患と腸内微生物叢の関連について、その全体像は明らかになっていなかった。
本研究では全身性エリテマトーデス(SLE)患者に対してメタゲノムショットガンシーケンスを行い、腸内細菌叢の網羅的解析を行った。また、メタゲノムショットガンシーケンスデータからウイルス叢を再構築するパイプラインを新たに構築し、関節リウマチ(RA)、SLE、多発性硬化症(MS)患者の腸内ウイルス叢の解析を行った。
細菌解析では、2種類のストレプトコッカス属の細菌が、SLE患者で有意に増加していた。これらの関連は、別のデータセットを用いた解析でも再現することが出来た。血中代謝物データとの統合解析を行い、SLE患者で増えていたストレプトコッカスがアシルカルニチン(18:1)と正の相関を持つことを示した。ウイルス叢解析では、crAss-like phageがRAおよびSLE患者で減少していることが分かった。
論文キーワード:腸内細菌叢、腸内ウイルス叢、自己免疫疾患

著者コメント:
この度は我々の研究成果を発表する機会をいただき、また優秀演題賞に選出いただき、心より感謝申し上げます。沖縄という素晴らしい場所で、多くの先生方とお話しさせていただき、大変勉強になりました。これを励みに、さらに研究を発展させていきたいと思います。

BNT162b2mRNAワクチンによるエピジェネティック変化を伴った一過性のI型IFN応答の増強

山口勇太1,2、加藤保宏1,2、熊ノ郷淳1,2
1大阪大学大学院医学系研究科呼吸器·免疫内科学,
2大阪大学免疫学フロンティア研究センター感染病態分野

ウイルス感染症に対する自然免疫応答は宿主防御機構として機能する大変重要な免疫反応です。中でもインターフェロン応答はウイルス排除に機能します。このような防御機構を備えているにも関わらず、SARS-CoV-2はその重症化率が大きな問題となっております。すなわち、COVID-19パンデミックを克服する上でインターフェロン応答を考慮することは大変重要であります。しかし、SARS-CoV-2 mRNAワクチン研究のほとんどが、獲得免疫にフォーカスされてきました。今回、私達は健常者mRNAワクチンコホート研究によって、mRNAワクチン2回目接種後にインターフェロン応答が増強すること、その背景にエピジェネティクス制御が存在することを明らかにしました。しかし、そのクロマチンアクセシビリティの変化は2回目接種からわずか1ヶ月で消失していることもわかりました。すなわち、mRNAワクチンによって自然免疫記憶が形成されるも、それは一過性のものであるということを明らかにしました。
キーワード: SARS-CoV-2 mRNA vaccine、Innate immune memory、short-term epigenetics changes

著者コメント:
この度はこのような素晴らしい賞をいただき誠にありがとうございます。mRNAワクチンという今まさに世界中で使用されている核酸医薬に関する研究報告をさせていただきました。mRNAワクチンはRNAにシュードウリジン修飾を施すことで自然免疫応答を“ほどよく”調整しています。免疫は自然免疫から獲得免疫へとバトンを繋ぐ、いわば免疫リレーです。本研究結果が、少しでもこれからの核酸医薬の発展に寄与できれば幸いです。

外部栄養による軟骨成長板幹細胞制御メカニズムの解明

尾市健1,2、北川知明2、中川匠2、河野博隆2、大鶴聰1
岩本容泰1、岩本資己1
1メリーランド州立大学整形外科,  2帝京大学医学部整形外科学講座

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骨端部に存在する軟骨成長板における軟骨内骨化により長管骨は成長する。近年、軟骨成長板静止層に幹細胞が存在することが証明されたが、その制御機構など詳細は分かっていない。低栄養が成長障害を起こすこと、栄養を再開すると成長が加速するcatch-up現象が起きることから、栄養が幹細胞の重要な制御因子であるとの仮説をたて検証した。Axin2CreERT2マウスを用いた細胞系譜実験によりAxin2陽性細胞がこれら幹細胞を標識することを示した。次に栄養制限ののちに食事を再開するモデルで細胞系譜実験を行ったところ、食事制限により幹細胞は分化を抑制し自己複製を増強することでその数を増やすこと、また食事再開により分化を再開し、より多くの軟骨カラムを形成することで過成長に寄与することを明らかにした。LMDおよびRNA-seqの手法を用いて、IGF1シグナルがこの制御機構に関与していることを示した。
キーワード:1.軟骨内骨化、栄養、IGF1シグナル

著者コメント:
本研究の大部分は2019年から2022年の間に、メリーランド州立大学岩本資巳ラボに留学中に行ったものです。留学中はコロナ窩により5ヶ月ほど実験ができなくなるなど苦労しましたが、一からプロジェクトを立ち上げて遂行する経験は大きな糧となりました。根気よくサポートして頂いた岩本資巳先生、大鶴聰先生には心より御礼申し上げます。

細胞骨アトラスによるskeletal diseases病因解明

岡田寛之1,2、谷彰一郎1,2、小野寺晶子3、小俣康徳2,4、寺島明日香2,4
矢野文子5、斎藤琢2、東俊文3、Roland Baron2、田中栄2、鄭雄一1、北條宏徳1
1東京大学疾患生命工学センター臨床医工学,  2東京大学整形外科,  3東京歯科大学生化学, 
4東京大学骨軟骨再生医療講座,  5昭和大学歯学部口腔生化学講座

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1細胞解析が近年流行しています。骨リモデリングに関与する多細胞集団のダイナミクスを理解するためには、骨の生物学研究者自身が1細胞解析を骨に適応する努力をしなければなりません。1細胞解析の問題点として、
① 1細胞解析は高価であり、十分なreplicatesが取れないこと
② 細胞分取時の選択バイアスが研究者間にあること
に加え、
③ マイクロ流路による細胞へのストレス、細胞径制限
が技術的課題として考えられます。これらを克服するための方策として、公共データを用いた1細胞骨アトラスの構築を試みました。
計算アルゴリズムの改良に伴い、アトラス作成はエンドユーザーにも比較的容易になってきました。1細胞骨アトラスを応用して得られた新知見には、
❶ 骨細胞の機能
❷ 破骨細胞の分化経路
❸ ヒト骨疾患の病因
などあり、1細胞骨アトラスは骨の研究を推進する上で、とても有用なことが分かりました。
論文キーワード:1細胞解析、骨細胞、破骨細胞

著者コメント:
本研究は、新型コロナ感染症流行が始まった時期が、筆者が現所属先に赴任した時期に重なり、新たなプロジェクトが中止され、苦肉の策として始めたものでした。新技術を積極活用し、骨の研究者の共通言語作りに貢献できればと考えています。
また発表を契機に、新たな共同研究が始まりました。Think differentという骨免疫学会の趣旨に合うコラボが生まれるよう、今後も参加させて頂けますと幸いです。

高い骨吸収能とT細胞刺激能を備えたヒト樹状細胞由来破骨細胞

山形薫1、中山田真吾1、成澤学1、久保智史1
岡田洋右1、山岡邦宏2、田中良哉1
1産業医科大学医学部第1内科学,  2北里大学医学部膠原病·感染内科学

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破骨細胞は通常、単球から分化します(Mo-OC)。一方、関節炎モデルマウスにおいて、樹状細胞(DC)から分化する破骨細胞(DC-OC)が見出されています。これまでヒトのDC-OCに関する報告は殆どないものの、我々はTRAP+/CD86+の細胞が関節リウマチ(RA)患者の滑膜内に局在することを発見しました。さらにこの細胞に興味をもち、機能と病的意義を解明するために研究を開始しました。in vitroでM-CSFとRANKLの存在下でDCから分化した細胞は、カテプシンK+/TRAP+の多核巨細胞であり、Mo-OCよりも強い骨吸収能を有するDC-OCであると判明しました。T細胞はMo-OCでなくDC-OCと共培養すると増殖しました。CD80/CD86を標的にするアバタセプトの添加により、DC-OCのT細胞刺激活性は低下しました。以上より、ヒトDC-OCは、高い溶骨活性に加え、T細胞刺激活性を示し、それぞれ骨破壊と免疫に寄与し、RAの病態形成をもたらすと考えられました。
キーワード: 樹状細胞、破骨細胞、RA

著者コメント:
この度は、第7回日本骨免疫学会にて栄誉ある賞を頂戴し大変光栄に存じます。恩師である田中良哉教授を始めとする諸先生方のご指導をはじめ、研究室の仲間(特に成澤学先生)のご支援の賜物です。心より御礼申し上げます。この賞に恥じぬよう、初心を忘れずに、研究成果を世の中に還元していけるように、さらなる精進を重ねる所存です。

Identification of a transcription factor that drives polarization toward tissue-destructive fibroblasts in arthritis

Minglu Yan1、Noriko Komatsu1、Ryunosuke Muro1、Hiroyuki Takaba1、Takeshi Nitta1
Kazuo Okamoto2、Masayuki Tsukasaki1、Hiroshi Takayanagi1
1Department of Immunology, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, The University Of Tokyo, Japan,  2Department of Osteoimmunology, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, The University Of Tokyo, Japan
Author: YAN MINGLU

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Fibroblasts are structural cells playing a fundamental role in health and disease. Synovial fibroblasts (SFs) are a key cellular component of joint synovium, providing a structure framework as well as lubrication for joint homeostasis. In rheumatoid arthritis (RA), SFs assume either a pro-inflammatory or destructive phenotype; however, the molecular mechanism driving these divergent pathogenic fibroblast subpopulations remains unclear.
Joint destruction and disability represents one of the most challenging clinical problems in arthritis, which includes bone erosion and cartilage damage. Since the discovery of the receptor activator of NF-κB ligand (RANKL) expression in SFs in 2000, the role of RANKL in RA-associated bone erosion has been increasingly explored. Fibroblast-specific knockout (KO) of RANKL in mice prevents arthritis-induced bone erosion without influencing the inflammation. Anti-RANKL treatment in RA patients effectively suppresses bone erosion; however, it does not ameliorate cartilage damage. Since destructive fibroblasts induce both bone erosion and cartilage damage in arthritis, we set out to investigate what mechanisms drive the expression of RANKL and activation of destructive fibroblasts in the joint.
Epigenomic analyses of arthritic SFs revealed five distal enhancer-like regions (E1-E5) in the upstream of the TNFSF11 (encoding RANKL) gene locus. Functional analyses of individual enhancers showed E3 had the strongest capacity to induce RANKL promoter activity. We generated each individual enhancer KO mice and showed SFs derived from E3-KO mice displayed a substantially decreased RANKL expression. Of note, E3-KO mice exhibited ameliorated arthritis-induced bone erosion while displaying a normal bone phenotype in physiological condition. Motif enrichment analysis and gene reporter assay suggested the transcription factor TFx regulated E3 enhancer activity. Immunohistochemistry and single cell RNA-sequencing analyses of RA synovium showed TFx was mainly expressed in lining layer, destructive fibroblast population. Fibroblast-specific TFx deletion (TFxΔFib) resulted in prevention of bone erosion and cartilage damage without influencing the inflammation, suggesting TFx functions as the key transcription factor driving pathogenic polarization of tissue-destructive fibroblasts in arthritis.
キーワード: RANKL, Rheumatoid arthritis, Bone erosion

著者コメント:
We have been studying RANKL and SFs for more than 20 years and have been very interested in the molecular mechanisms of joint damage in arthritis. We set out to investigate the transcriptional mechanisms of RANKL induction in SFs and were excited to see the importance of TFx in SFs not only for bone-damaging RANKL but also for cartilage-damaging matrix metalloproteinases. We hope this study would help improve the current understanding of the mechanisms driving the pathogenic fibroblast activation and help in developing therapeutic approaches for arthritis-associated joint damage.

遠隔炎症ゲートウェイ反射:感覚神経-介在神経回路とATPによる遠隔部位での炎症誘導

長谷部理絵1、村上薫2、北條慎太郎2,3、田中勇希3、村上正晃1,2,3
1生理学研究所 分子神経免疫研究部門,
2北海道大学 遺伝子病制御研究所分子神経免疫学分野,
3量子科学技術研究開発機構量子免疫学研究部門

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関節リウマチでは左右対称性に離れた関節で遠隔炎症が生じるが、その分子機構については解明が進んでいなかった。今回、私たちは、サイトカイン誘導性とコラーゲン誘導性の2つの関節炎モデルを用いて、ATPによる感覚神経と脊髄介在神経のクロストークにより、遠隔炎症が生じる分子機構を明らかにし、「遠隔炎症ゲートウェイ反射」と定義した。遠隔炎症ゲートウェイ反射では、片側足関節の炎症により生じたATPが第5腰髄 (L5)レベルの感覚神経を活性化し、L5腰髄から下部胸髄のプロエンケファリン陽性介在神経ネットワークを介して反対側L4-L6レベルの感覚神経を活性化、逆側の足関節にて逆行性に神経終末よりATPが放出され、非免疫細胞のIL-6アンプが活性化し、遠隔炎症が生じた。関節局所においてATPを介した当該神経回路の活性化を遮断することが、関節リウマチに対する治療標的となる可能性がある。
キーワード: 遠隔炎症ゲートウェイ反射、ATP、関節リウマチ

著者コメント:
この度は第7回骨免疫学会の優秀演題に選出していただき、大変光栄に存じます。骨免疫学会には今回、村上教授の紹介で初めて参加させていただきました。骨免疫に関して、基礎から臨床研究を網羅する興味深い発表が多くあり、大変勉強になりました。今後も骨免疫学会に参加したいと思います。ありがとうございました。

Dnmt1は成長板軟骨細胞の正常分化に必須である

柳原裕太1、今井祐記1
1愛媛大学プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門

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本研究では軟骨細胞分化における維持型DNAメチル化酵素(Dnmt1; DNA methyltransferase 1)の役割を解明すべく、Prx1-Cre; Dnmt1 flox/floxマウス (cKOマウス)を解析した。cKOマウスは、1週齢で長管骨の骨長の短縮を認め、増殖軟骨層の菲薄化、肥大軟骨層の増大、石灰化の促進及び増殖軟骨細胞の増殖能低下を示した。さらにDnmt1によって発現が制御され、軟骨細胞の増殖・分化に影響を及ぼす因子を同定するため、RNA-SeqとMBD-Seqの統合解析により、Dnmt1欠損に伴うDNAメチル化の減少によって発現量が増加した遺伝子を絞り込んだ。その結果、cKOの軟骨細胞において高発現している遺伝子群が、”catabolic process”に多く含まれており、cKOマウスの表現型形成にはTCAサイクルの変化が関連している可能性が示唆された。
キーワード:Dnmt1 、軟骨細胞分化、成長板

著者コメント:
博士課程1年目で初めての学会参加が第1回日本骨免疫学会でした。素晴らしい環境での学会に参加することができ、研究に対するモチベーションが高まったことを覚えております。そして、第7回日本骨免疫学会にて、栄誉ある賞をいただくことができ大変光栄に思います。今後も日々精進し、研究に邁進する所存です。