久我 大雅1,2、千葉 麻子1、村山 豪2、細見 航介1、中川 知哉1、矢作 嘉行1,2、草生 真規雄2、山路 健2、田村 直人2、三宅 幸子1
1順天堂大学 医学部 免疫学講座
2順天堂大学 医学部 膠原病内科
先行研究で、STING経路の刺激によりSLE患者単球のIFNα産生が増加することが示されているが、本研究は、SLE患者の単球におけるIFNα産生亢進機序を解明することを目的とした。
SLE患者および健常人の末梢血単核球から単球を分離し、2'3'-cGAMP(STINGアゴニスト)で刺激後、IFNα陽性/陰性細胞をFACSでソートし、RNA-seq解析を行った。その結果、IFNα陽性細胞における発現変動遺伝子の解析により、SLE単球ではCDKN2Aなどの細胞老化関連遺伝子の発現が増加し、老化細胞のサイトカイン産生に関連するGATA4遺伝子発現も増加していた。さらに、単球のSA-β-gal活性を測定したところ、SLE患者単球のSA-β-gal活性は健常人より高かった。U937細胞株にGATA4プラスミドをトランスフェクション後、2'3'-cGAMPで刺激し、RT-PCRでIFNA1遺伝子発現を測定したところ、GATA4過剰発現によりU937細胞株のIFNA1発現が増加した。以上より、SLE患者単球のIFNα産生亢進には、細胞老化やGATA4遺伝子が関与していることが示唆された。
論文キーワード:SLE、単球、細胞老化
著者コメント:
骨免疫学会には初めて参加しました。梅雨前線を飛行機で乗り越え、晴天の宮古島の大自然でリラックスしながらポスターや第一線でご活躍の先生方の講演を拝聴できとても充実した学会でした。異なる疾患領域のご研究からの学びもあり、今後にぜひ活かしていきたいと思います。
宮本 佑1,2、石井 優1,2
1大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫細胞生物学
2大阪大学大学院医学系研究科・生命機能研究科 免疫細胞生物学
肝臓には、腸管で吸収された栄養素の他に、腸内細菌など外来異物がしばしば入ってきます。通常の肝臓では、このような炎症誘導性の異物を免疫系が過度に反応することなく適切に処理していますが、その実態はよくわかっていませんでした。今回の研究では、肝臓の生体イメージングによる免疫細胞の動態解析と組織内の位置情報を保持した1細胞遺伝子発現解析により、肝臓の門脈近傍、すなわち入口付近にはスカベンジャー受容体MARCOと抗炎症性サイトカインIL-10を高発現する特殊なマクロファージ(クッパー細胞)が局在しており、このクッパー細胞が腸管から入ってくる異物を貪食消化しながら周辺で生じる炎症反応を適切に制御することで肝臓を保護していることを解明しました。このクッパー細胞の貪食機能および免疫抑制機能を遺伝子欠損により低下させると、腸管から異物が肝臓内へ移入してきた時に、炎症、肝障害、組織線維化が生じることを明らかにしました。代謝異常性脂肪肝炎や原発性硬化性胆管炎はともに腸管由来異物の肝臓への移入が病態発症・進行のリスク要因とされていますが、これらの病態をわずらったヒト肝臓を調べると、我々が同定した肝臓を保護する特殊なクッパー細胞が顕著に減少していることも明らかにしました。
論文キーワード:肝臓マクロファージ/クッパー細胞、MARCO、IL-10
著者コメント:
本研究のポイントは、肝臓内の空間的に不均一な免疫細胞動態から肝臓を守るマクロファージの発見につながった点にあります。生体イメージングで生きた動物体内の免疫細胞の動きを注意深く観察すると、組織内の場所によって異なることが多々あります。免疫細胞の動きは、未知の生命原理に迫る道標となることを学びました。
牛島 俊征1、照屋 寛之1、後藤 愛佳1、高橋 秀侑1、板宮 孝紘1,2、土屋 遥香1、庄田 宏文1、岡村 僚久1,2、藤尾 圭志1
1東京大学大学院医学系研究科 アレルギー・リウマチ学
2東京大学大学院医学系研究科 免疫疾患機能ゲノム学講座
全身性エリテマトーデス(SLE)で自己抗体を産生するB細胞が出現する機序は不明な点が多い。本研究では、SLE、健常人(HC) の末梢血単核細胞に対してscRNA-seq, CITE-seq, BCR-seqによるシングルセル マルチオミクス解析を行い、イムノグロブリン重鎖のsomatic hypermutation (SHM)頻度、アイソタイプを解析し、SLEにおけるB細胞受容体(BCR)の特徴を解析した。
SLEのメモリーB細胞においてはSHMの減少を認め、特にIgM isotypeでその傾向は著しかった。興味深いことに、SLEにおいては、自己反応性BCRの特徴的なモチーフが、特定のB細胞クラスターにおいて保存されており、疾患活動性との相関を認めるという知見を得た。以上のことから、IgM isotype B細胞は、SLEの新たな創薬標的となる可能性を内包していると考えられた。
論文キーワード:全身性エリテマトーデス、B細胞、シングルセル解析
著者コメント:
この度は素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。宮古島の綺麗な風景を堪能しつつ議論を深めることができ、非常に刺激的な三日間を過ごしました。臨床への応用を目指し、引き続き研究を発展させていこうと思います。
橋本 和樹1、新津 敬之1、片岡 俊郎2、福島 清春1,3、元岡 大祐4、七野 成之5、夏目 やよい6、北村 英也7、丹羽 崇7、馬場 智尚7、奥崎 大介4、奥寺 康司2、小倉 髙志7、審良 静男3、熊ノ郷 淳1
1大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
2埼玉医科大学病院 中央病理診断部・病理診断科
3大阪大学免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学
4大阪大学微生物学研究所 感染症メタゲノム研究分野
5東京理科大学 研究推進機構 生命医科学研究所
6国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
7神奈川県立呼吸器循環器病センター 呼吸器内科
【背景・目的】
肺線維症の根底にある細胞・空間動態は完全には解明されていない。本研究では、空間的遺伝子発現解析とシングルセルRNAシークエンシング(scRNA-seq)を用いたmultimodalなアプローチにより、不均一な肺線維症に共通する線維化メカニズムに必須な分子を同定し、臨床応用する事を目的とした。
【方法】
様々な間質性肺疾患患者24名から採取されたクライオバイオプシー標本に対し、空間遺伝子発現解析を行った。さらに、予後不良な病理所見であるfibroblastic foci (FF)に焦点を当て、共発現ネットワーク分析を行い、FF特異的遺伝子群を探索した。抽出した候補分子に免疫組織化学染色を行い、多様な間質性肺疾患における発現プロファイル及び予後との相関を検証した。
【結果】
FF特異的に高発現する遺伝子群 (SM2 module)を同定した。公開およびオリジナルscRNA-seqの再解析から、SM2 moduleは線維芽細胞活性化に関わる遺伝子を多く共有していた。SM2 module構成分子の中でもSPARCは様々な間質性肺疾患で活性化線維芽細胞に特異的に染色された。さらに、71名のunclassifiable ILD (uILD)患者でSPARCの免疫染色を行い、活動性線維化領域で特異的に陽性を示す一方、進行した蜂巣肺領域では陰性であった事、SPARC陽性割合と予後が有意に相関した事から、SPARCの発現は線維化早期を表現し、予後マーカーとしての可能性が示唆された。
【考察】
大規模な空間的遺伝子発現解析とscRNA-seqを統合した疾患横断的アプローチにより、線維化における真に重要な遺伝子発現パターンと分子が明らかになった。特に、uILDにおけるSPARCの予後的重要性が確立された。この知見は、将来的にSPARCを標的とした肺線維症治療戦略の開発に繋がる可能性を示唆する。
論文キーワード:肺線維化、空間遺伝子発現解析、SPARC
著者コメント:
この度は光栄にも賞をいただき、心より感謝申し上げます。 御指導いただいた共同研究者の皆様、そして研究室の新津先生、福島先生、審良先生、熊ノ郷先生に深く御礼申し上げます。 学会では活発な議論に参加させていただき、大変刺激を受けました。今後もこの賞を励みに、さらに研究に邁進してまいります。
駒ヶ嶺 正嗣1,2、小松 紀子1、岡本 一男3、松田 光太郎1、竹内 勤2,4、金子 祐子2、高柳 広1
1東京大学大学院医学研究科免疫学
2慶應義塾大学リウマチ・膠原病内科
3東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座
4埼玉医科大学
関節リウマチ治療薬であるJAK阻害剤は、骨代謝にも影響を与えることが近年注目されている。本研究では、JAK阻害剤が破骨細胞と骨芽細胞のどちらに作用して骨防御作用を発揮するかを明らかにする為、関節リウマチの骨破壊のタイプ別に検討し、培養系においてJAK阻害剤の標的細胞を探索した。関節炎モデルマウスにおいて、全ての部位でJAK阻害剤は破骨細胞の分化を抑制することで、骨破壊を防いだ。さらにJAK阻害剤は炎症滑膜から離れた踵骨、傍関節領域、脊椎において骨芽細胞数および骨形成速度が増加した。骨芽細胞との共存培養系において、JAK阻害剤は破骨細胞分化を抑制し、T細胞共存系では、ほとんどのJAK阻害剤はIFN-gによる破骨細胞の分化抑制効果を阻害したが、一部のJAK阻害剤はこの効果を減弱させなかった。以上より、JAK阻害剤は関節破壊では主に破骨細胞を抑制し、傍関節性及び全身性骨粗鬆症では破骨細胞抑制と骨形成促進により骨防御作用が発揮される事が示唆された。
論文キーワード:関節リウマチ、JAK阻害薬、破骨細胞
著者コメント:
本研究の成果により、関節リウマチにおけるJAK阻害薬の骨破壊抑制メカニズムが解明され、さらに骨形成を促進させるというユニークな結果が得られた。
これらの知見は、関節リウマチ治療においてJAK阻害薬が骨破壊を修復する可能性を示唆しており、今後の治療戦略の一助になることが期待される。
若菜 傑1,2、古賀 貴子1,2,3、百枝 雅裕2、金子 晴香2、良永 知穂1、釼先 結香1、遠藤 洋子4、吉田 浩之4、石島 旨章1,2,3、岡田 保典1,2
1順天堂大学大学院医学研究科 運動器疾患病態学講座
2順天堂大学大学院医学研究科 整形外科・運動器医学講座
3順天堂大学大学院医学研究科 骨関節疾患地域医療・研究講座
4花王株式会社 生物科学研究所
Hyaluronan-binding protein involved in hyaluronan depolymerization(HYBID)は、生体内でヒアルロン酸(HA)分解に重要な役割を果たしている。今回、マウス大腿骨骨幹部横断骨折モデルにおいて、Hybid mRNAが骨折2週後の仮骨組織で高発現し、免疫染色により骨性軟骨性仮骨での骨芽細胞や肥大軟骨細胞で産生されることが分かった。そこで、Hybid遺伝子欠損マウスを用いて大腿骨骨幹部横断骨折治癒過程におけるHybidの役割を検討した。マイクロCTによる構造解析では、野生型マウス群に比べて、Hybid欠損マウスでは石灰化仮骨による骨折断端間の融合遅延を同定した。Hybid欠損マウスの仮骨組織では高分子HAが蓄積しており、また、組織学的解析から、軟骨性仮骨と骨性仮骨の境界部において、TRAP陽性の破骨細胞とCD31陽性の新生血管が減少しており、軟骨性仮骨の吸収低下が骨折断端間骨融合の遅延に関与すると考えられた。一方、両群マウスの骨折部位の仮骨周囲に低分子量HAを投与すると、両者において骨折治癒が促進した。以上により、骨折治癒過程においてHybidを介したHA分解が内軟骨骨化を促進することが示唆された。
論文キーワード:HYBID、ヒアルロン酸、マウス大腿骨骨幹部骨折モデル
著者コメント:
この度、第9回日本骨免疫学会において優秀演題賞を頂き、大変光栄に存じます。本研究が骨折治癒の理解と治療法の発展に寄与できることを願っております。ご支援とご指導いただいた皆様に深く感謝申し上げます。
石田 昌義1、岩本 莉奈1、高橋 拓実2、何 治鋒1、宇田川 信之1,3、小林 泰浩1
1松本歯科大学総合歯科医学研究所
2松本歯科大学大学院歯学独立研究科
3松本歯科大学歯学部生化学講座
老化細胞は、炎症性サイトカイン・ケモカイン等のSASPと呼ばれる液性因子を分泌することが知られることから、老齢マウスや高齢者では老化細胞由来のSASPにより骨芽細胞分化を抑制されているのではないかと仮説を立て研究を行いました。まずマウス骨髄由来間葉系幹細胞株ST2細胞を55回以上繰り返し継代し、細胞老化を人為的に誘導すると、継代を重ねない(若い)ST2細胞と比べてALP活性や石灰化能が低下していました。次に老化ST2細胞の培養上清をWnt3a存在下で骨芽細胞分化を誘導すると骨芽細胞分化が強く抑制されていたことから、骨芽細胞分化を抑制する液性因子の探索をWnt-カテニンシグナル阻害因子に絞り網羅的に解析したところ、Dkk1発現が非常に高い発現を示していました。老化細胞では核膜が崩壊し自己DNA断片が細胞室内へ漏出することによりcGAS-STING経路が動くことがSASP発現を誘導することが報告されているため、下流のIFN-を添加すると、Dkk1発現誘導が引き起こされ、上流のcGAS発現を抑制させてもIFNと同時にDkk1発現が減少したこと、cGASにより生じるDNAの代謝産物cGAMPを培養中に添加してもDkk1発現が見られたことから老化間葉系幹細胞ではcGAS-STING経路を介してDkk1発現が引き起こされることが考えられました。今後は、老齢マウスを用いながらVivoにおける骨量減少に老化細胞がどのように関与するのかを解明していきたいと存じます。
キーワード:細胞老化、SASP、Dkk1
著者コメント:
この度はこのような素晴らしい賞を頂き、感謝申し上げます。学会期間中は多くの研究者と交流を深めることができ、さまざまな分野の研究も知れ、何より大きな刺激を受けました。また、ご指導、ご鞭撻を賜りました松本歯科大学総合歯科医学研究所の皆様に心から感謝いたします。
鶴井 敏光1,2,3、細沼 雅弘1,2,4、佐々木 彩1,2、丸山 祐樹1,2、甘利 泰伸2,5、船山 英治2,6、田島 康平2、豊田 仁志1,2、磯部 順哉2,7、山崎 喜貴8、馬場 勇太2、志田 みどり2、宇髙 結子1,3、倉増 敦朗2、角田 卓也3、木内 祐二1,4、吉村 清2,3
1昭和大学大学院医学研究科医科薬理学分野
2昭和大学臨床薬理研究所臨床免疫腫瘍学部門
3昭和大学医学部内科学講座腫瘍内科学部門
4昭和大学薬理科学研究センター
5昭和大学大学院医学研究科臨床薬理学分野
6昭和大学大学院薬学研究科基礎医療薬学講座薬理学部門
7昭和大学薬学部病院薬剤学講座
8昭和大学大学院薬学研究科毒物学分野
現在様々ながん種に免疫チェックポイント阻害薬の適応が拡大され一部の症例では長期生存を可能としたが、長期奏功率は未だ高いとはいえず、早期に治療効果を予測する有効なバイオマーカーの開発が課題である。
代表的な免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体投与後の患者末梢血T細胞において、PD-1に対する抗PD-1抗体の結合率は個人差が大きいことが知られている。
そこで我々は先行研究において、抗PD-1抗体投与患者におけるT細胞分画毎の抗体結合率と臨床効果との関連を明らかにしたが(Cancer Sci. 2024 Mar;115(3):752-762.)、本研究では抗体結合細胞の表現型と臨床効果との関連を探索することとした。その結果、抗PD-1抗体結合CD8陽性エフェクター/セントラルメモリー細胞集団の表現型Xと臨床効果との強い相関が明らかとなった。本研究は宿主の免疫に着目するものであり、がん種に依存せず治療早期に利用可能な低侵襲かつ簡便なバイオマーカーとして有用な可能性が示唆された。
論文キーワード:腫瘍免疫、免疫チェックポイント阻害薬、バイオマーカー
著者コメント:
この度は優秀演題に選出頂き誠にありがとうございます。
研究室ならびに共同研究者の皆様、そして検体を提供してくださった患者様に心より感謝申し上げます。得られた研究成果を患者様に還元できるよう、今後も引き続き精進してまいります。
板橋 歩未、岡本 一男、曽宮 一恵、高柳 広
出生後、全ての血球系・免疫系細胞は骨髄の造血幹細胞から産生される。骨髄では多様な間葉系細胞の協働により、造血幹細胞や免疫前駆細胞の維持・分化が綿密に制御されていることが明らかになった。一方で大理石骨病など病的要因により骨髄環境が障害された場合や、貧血、妊娠下では、脾臓で代償的な髄外造血が起こる。これまで赤脾髄ストロマ細胞や、血管内皮細胞がニッチ構成細胞として報告されているものの、統一した見解は得られていない。そこで我々は、脾臓シングルセルRNA-seqデータの解析により、一部の血管平滑筋細胞や周皮細胞も造血幹細胞の維持に関わるサイトカインを産生し得ることを発見した。以上の結果から、既報のニッチ構成細胞に加えて血管平滑筋細胞や周皮細胞も髄外造血におけるニッチ構成細胞の一部であり、髄外造血時の脾臓においても骨髄造血と同様に多様な間葉系細胞が協働していることが明らかになった。本研究により、造血幹細胞の維持や機能に関わる微小環境の新たな共通原理の解明が期待できる。
キーワード:髄外造血、造血微小環境、血管平滑筋細胞
著者コメント:
この度はこのような素晴らしい賞をいただき、心より感謝申し上げます。そして本研究にあたりご指導、ご鞭撻を賜りました高柳広先生、岡本一男先生はじめ多くの先生方、多大なご協力をいただいた研究室の皆様に改めて深くお礼申し上げます。本会を通じて得た学びを糧に、今後とも精進してまいります。
樋口 百合花、根岸 靖幸、成尾 宗浩、大内 望、鈴木 俊治、奥田 貴久、森田 林平
閉経後骨粗鬆症は女性のQOLを損なう重要な疾患である。現在様々な薬物治療、運動療法などが推奨されているが、その効果は未だ十分とは言えない。本研究では、卵巣摘出マウスにおける骨量減少を免疫学的視点から検索し、新たな閉経後骨粗鬆症発症メカニズムおよび新規治療作用点を見出す事を目的とした。
一般にIL-4やIFNγなどのサイトカインは破骨細胞の分化・増殖を抑制することが知られている。そこで骨内に存在する免疫細胞を解析したところ、T細胞、natural killer (NK)細胞、特にnatural killer T (NKT)細胞と呼ばれる細胞群がこれらサイトカインの強力な産生源であること、さらに卵巣切除によりこれらサイトカイン産生は有意に減少することを見出した。樹状細胞、マクロファージなどの抗原提示細胞の免疫刺激活性も卵巣切除により低下することが示された。以上により、我々は卵巣切除により骨内で“適切な炎症反応”が起こらず、免疫細胞からのIL-4やIFNγ産生が減少し、骨量減少が誘導されるのではないかという新しい骨粗鬆症発症メカニズムを提唱している。
キーワード:破骨細胞、サイトカイン、自然免疫
著者コメント:
この度は学生賞にご選出いただき大変光栄に存じます。そして、これまでご指導くださった先生方に心より感謝申し上げます。本会で初めての学会発表という貴重な経験をさせていただいた上でこのような有難い賞を頂戴し、身の引き締まる思いです。将来基礎と臨床の橋渡しができるよう、今後もより一層精進してまいります。
友藤 嘉彦1,2,3、枝廣 龍哉1,3、白井 雄也1,3、曽根原 究人1,2,3、王 青波1,2,3、難波 真一1,2、矢田 知大1、鈴木 亜香里3、山本 一彦3、熊ノ郷 淳1、岡田 随象1,2,3
1大阪大学大学院医学系研究科
2東京大学大学院医学系研究科
3理化学研究所 生命医科学研究センター
女性において、2本のX染色体のうちランダムに選ばれた1本は不活性化されている。しかしながら、X染色体の不活化はしばしば完全でなく、一部の遺伝子はX染色体の不活化から「逃避」することが知られている。X染色体不活化からの逃避は、男女間での遺伝子発現の差につながるため、ヒトの性差に関する重要な現象であると考えられてきた。本研究ではシングルセルオミクスデータセットを入力としてX染色体不活化からの逃避を定量するソフトウェア、scLinaX(single-cell Level inactivated X chromosome mapping)を開発した。scLinaXを複数の大規模シングルセルRNA-seqデータセットに適用することで、様々な細胞種におけるX染色体不活化からの逃避を定量することに成功し、特にリンパ球においてX染色体不活化からの逃避が強く起きていることを明らかにした。本研究で開発したscLinaXは既にRパッケージとして公開されており(https://github.com/ytomofuji/scLinaX)、今後、様々なデータセットに適用することが可能である。
キーワード:シングルセル、X染色体不活化、免疫細胞
著者コメント:
この度は優秀演題賞に選出いただきましたこと、大変光栄に存じます。また、本研究は、Asian Immune Diversity Atlas Networkを始めとする複数のコンソーシアムや多くの共同研究者の先生方の多大なるご助力によるものであり、この場をお借りして、心より感謝申し上げます。
李 承峰、村上 薫、松山 詩菜、長谷部 理絵、山崎 剛士、田中 勇希、北條 慎太郎、田中 宏樹、村上 正晃
我々の研究室では2012年に重力刺激により特定の感覚―交感神経回路が活性化し血中の免疫細胞の中枢神経系 (CNS) への侵入口が形成されるゲートウェイ反射(G反射)を発見し、その後、痛み、ストレス、光、関節内炎症など合計6つのG反射を報告した。2015年には、多発性硬化症 (MS) のマウスモデルであるMSモデル (tEAEモデル) を用いて、第5腰髄 (L5) に血中から集積するCD11b+ MHC class II+細胞 (MHC IIhi食細胞) が、寛解時においてもCNSに長期間生存し、痛み刺激によって生じるG反射によってミエリン反応性CD4+T細胞をL5腹側血管周囲に集積させ、中枢炎症再燃を誘導することを発見した。本研究では、MSモデルの再燃をもたらすCNSに残存するMHC IIhi食細胞が寛解期においてどのように長期生存し再燃に関与するかを検証した。これらの細胞はGM-CSF受容体を高発現し、さらにCNSにGM-CSFの増減によりこれらの細胞も増減し、GMCSFの抑制にて痛覚依存性神経炎症再燃も抑制された。また、MHC IIhi食細胞がL5において高い割合でGM-CSFを高発現するBECsと共局在していることからBECsはCNSにおいてMHC IIhi食細胞の生存をGMCSFにて促進し、痛覚刺激によるtEAE再燃に重要であることが明らかとなった。
キーワード:ゲートウェイ反射(G反射)、多発性硬化症、GM-CSF
著者コメント:
本研究によりMSモデル再燃に重要な末梢由来MHC IIhi食細胞のCNSにおける長期生存がBECsより産生されるGM-CSFに依存することが示された。この研究結果によりCNSでのGM-CSF抑制はMSのような再燃を伴う炎症性中枢神経系疾患における新規治療標的として活用できる可能性が示唆され今後さらに発展させ実際に新規治療法の開発を目指したいと考える。