岡田寛之1,2、鍛治屋浩3、小俣康徳2、北條宏徳1、鄭雄一1、
岡部幸司2、宮本健史4、田中栄2
1東京大学疾患生命工学センター臨床医工学, 2東京大学整形外科,
3福岡歯科大学 細胞生理学,4熊本大学大学院生命科学研究部 整形外科
破骨細胞に必要な共刺激受容体である2種のITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)受容体が、①下流のカルシウム振動をどのように制御仕分けるのか、②
M-CSF, RANKLなど分化誘導因子との関連はどうか、数理モデルを用いて検討しました。我々はこれまで破骨細胞分化における過去のカルシウム研究を分析し、振動の客観的指標樹立の重要性を唱えました(岡田ら, Int
J Mol Sci 2021)。カルシウム振動の周波数解析はすでに報告しました(岡田ら, J Bone Miner Res
2019)。本研究では周波数に加えて、混同されやすい振幅、濃度レベルを切り分ける手法を考案しました。
論文キーワード:破骨細胞、カルシウム、共刺激
著者コメント:
周波数、振幅、濃度レベルといったカルシウム波の基本特徴量の解析プラットフォームとして期待しています。カルシウムハーモニーの現象論的理解を固め、そもそも非興奮性の細胞でカルシウムが変動する生理的意義は何なのか、メカニズムに迫る研究を展開したいです。
骨免疫学会は、多様な領域の先生方から刺激を頂ける貴重な機会です。この度は誠にありがとうございました。
上中麻希、山下英里華、菊田順一、石井優
大阪大学大学院医学系研究科免疫細胞生物学
骨代謝は、破骨細胞による骨吸収期と骨芽細胞による骨形成期から成る、骨のリモデリングにより調節されている。しかし骨吸収期と骨形成期がどのように入れ替わるのか、未だ不明な点が多い。我々は高解像度の二光子イメージング技術を用い、生体内で成熟骨芽細胞が細胞外小胞を放出し、取り込んでいることをリアルタイムに観察し、骨芽細胞間で細胞外小胞を介したコミュニケーションがあることを明らかにした。共培養実験において、小胞は骨芽細胞分化に必須なRunx2の発現を抑制し、ALP活性を抑制した。一方、破骨細胞分化に必須であるRanklの発現を促進し、破骨前駆細胞の破骨細胞分化を促した。以上より、骨芽細胞間の小胞を介したコミュニケーションは、骨芽細胞分化を抑制し、破骨細胞分化を促すことで、骨形成期から骨吸収期への相転換に寄与している可能性が示唆された。
論文キーワード:骨芽細胞 細胞外小胞 生体イメージング
著者コメント:
骨芽細胞間の細胞外小胞の受け渡しを生体内でリアルタイムに観察し、骨のリモデリングにおける役割を検討した研究です。学会では多くの先生方から貴重なアドバイスをいただくことができました。コメントをいただいた先生方、聞いてくださった先生方、ご指導いただきましたラボの皆様、誠にありがとうございました。
金澤三四朗、岡田寛之、北條宏徳、大庭伸介、古村真、疋田温彦、星和人
(東京大学医学部、長崎大学医歯薬総合研究科)
細胞と細胞外マトリックス間の多機能ネットワークである骨髄微小環境は、間質細胞と造血細胞の増殖、分化、生存の維持に重要な役割を果たす。間葉系間質細胞(MSC)は、多能性を有するとされるが、実態は不均一な細胞集団で構成されているため、正確な特性評価が妨げられている。Sca-1およびPDGFR-α(Pα-S)は、MSC分離に有用とされているが、他のマーカー同様に不均質な細胞集団を含む。MSCの特性をより深く理解するには、MSCを構成する集団を分析し、不均一性を解明することが重要である。本研究では、scRNA-seq解析により、Pα-S陽性を構成する亜集団を同定し、細胞表面抗原解析により亜集団の分離に成功した。また、RNA-seqおよびATAC-seqから、Pα-Sを構成する亜集団の多様性を特徴づけた。これらの結果は、MSCの特性の解明に寄与し、骨髄微小環境における幹細胞ニッチシグナルの解明に役立ち、骨および骨髄関連疾患の治療等への臨床応用につながると期待される。
キーワード:骨髄微小環境、MSC、骨髄ニッチ
著者コメント:
この度はこのような素晴らしい賞を頂き、改めて御礼申し上げます。コロナの渦中に学会開催学のためにご尽力した頂いた先生方、スタッフの方々には大変感謝しております。
骨免疫学の奥深さを改めて実感できたことは研究モチベーションの一助とも二助ともなりました。ありがとうございました。
杉田拓也1、岡本一男2、浅野達雄1、高柳広1
1東京大学大学院医学系研究科免疫学
2東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座
RANKLは破骨細胞分化だけでなく、免疫組織形成にも必須な多機能性サイトカインである。RANKLは膜型と可溶型の2種類の形態を示すが、生体内における各々の役割の違いについて詳細は不明であった。本研究では、CRISPR/Cas9法により、可溶型RANKLまたは膜型RANKLを選択的に欠損させたマウスを作製することで、両者の機能の違いを生体レベルで検証することを目的とした。
膜型RANKL欠損マウスは、正常な歯の萌出を認める一方で、大腿骨の骨量が著しく増加していた。また膜型RANKL欠損マウスでは鼠径部リンパ節の形成に異常を認めた。これらの結果から、膜型RANKLは生理的な骨代謝や鼠径部リンパ節の形成に必要であることが明らかとなった。一方、歯の萌出や今回調べた鼠径部以外のリンパ節形成は、可溶型RANKLだけでも十分であることがわかった。従って、骨代謝ならびにリンパ節形成に関しては、膜型
RANKL が中心的な役割を担うものの、可溶型 RANKLでも部分的に補うことができると考えられる。
キーワード:膜型RANKL、可溶型RANKL
著者コメント:
この度は研究成果について発表させていただく機会をいただき、心より感謝申し上げます。また新型コロナウイルス感染拡大が終息を迎えない中、無事に学会を開催することができたことにも感謝申し上げます。今後も骨免疫学の発展に少しでも貢献できればと思います。
佐伯法学1、井上和樹1、大塚まき2、渡森一光1、水木伸一3、竹中克斗1、五十嵐勝秀2、三浦裕正1、今井祐記1
1愛媛大学、2星薬科大学、3松山赤十字病院
関節リウマチ(RA)の滑膜組織において、DNAメチル化パターンの異常が報告されているが、その制御メカニズムは未だ不明である。我々は関節炎モデルマウスの滑膜線維芽細胞におけるDNAメチル化維持分子Uhrf1の発現上昇を見出した。関節炎モデルで滑膜線維芽細胞特異的にUhrf1を欠損すると、DNAメチル化依存的にサイトカイン関連等の遺伝子発現が上昇し、多様な関節炎病態が悪化したことから、Uhrf1は関節炎病態の抑制に働くことが判明した。臨床サンプルを解析したところ、RA滑膜のUHRF1発現レベルはDAS28と負の相関を示し、マウスで認められた現象と大部分が一致した。また、我々はUhrf1発現を維持する化合物としてRyuvidineを同定し、関節炎モデルに投与したところ、関節炎病態が抑制された。以上より、UHRF1発現の維持はRAの新たな治療戦略になることが期待される。
論文キーワード:関節リウマチ、UHRF1、滑膜線維芽細胞
著者コメント:
この度は優秀演題賞に選出頂きまして誠に感謝申し上げます。残念ながら現地での参加は叶いませんでしたが、オンラインにも関わらず、非常に有意義なディスカッションをさせて頂きました。今後も本研究が新たなRA治療につながることを期待し、研究を進めていきたいと思います。
山田紗依子1、長渕泰雄1,2、太田峰人1,2、波多野裕明1、岩崎由希子1、庄田宏文1、久保かなえ3、島根謙一4、瀬戸口京吾5、東孝典6、山本一彦7、岡村僚久1,2、藤尾圭志1
1東京大学大学院医学系研究科アレルギー・リウマチ内科
2東京大学大学院医学系研究科免疫疾患ゲノム学講座
3東京都健康長寿医療センター膠原病・リウマチ内科
4東京都立墨東病院リウマチ膠原病内科
5がん・感染症センター都立駒込病院膠原病科
6あずまリウマチ・内科クリニック
7理化学研究所統合生命医科学研究センター自己免疫疾患研究チーム
我々はこれまでに、新規治療前の関節リウマチ(RA)患者55名において、末梢血単核球18分画のRNA-seqを行い、plasmacytoid dendritic
cells(pDC)の遺伝子moduleと治療抵抗性との関連を報告した。今回、治療抵抗性に関連するpDCの亜分画の同定を目的とした。まず、pDCのRNA-seq
dataに対して、亜分画の細胞割合を評価する手法である deconvolutionを行った結果、pDCの治療抵抗性moduleの発現とDC前駆細胞(pre DC)の存在割合は有意に相関し(r=0.70,
p=9.0e-08)、pDCとして分取された細胞中のpre
DCの混在が示唆された。さらに、検証コホートとして、新規治療前RA患者19名のqRT-PCR及び、abatacept開始RA患者28名の末梢血マスサイトメトリー解析を実施した結果、治療抵抗例でpre
DC関連遺伝子発現及びpre DC割合が有意に増加していた(各p<0.05)。本研究によって治療前のpre DCの増加と治療抵抗性の関連が示され、RAの層別化治療実現や病態解明に貢献し得る。
キーワード:関節リウマチ、治療抵抗性、トランスクリプトーム解析
著者コメント:
困難な状況下で学会をご開催いただき、また第5回骨免疫学会からの研究の進捗にて、二度目の優秀演題賞に選出いただき、御礼申し上げます。また本研究にあたり、藤尾教授を始めとした当科の先生方、共同研究施設の先生方にもご指導いただきました。先生方とのつながりに心から感謝し、今後も努力してまいりたいと存じます。
中野正博1、岩崎由希子1、竹島雄介1、太田峰人1,2、長渕泰雄1,2、岡村僚久1,2、藤尾圭志1
1東京大学大学院医学系研究科アレルギー・リウマチ内科
2東京大学大学院医学研究科・免疫疾患機能ゲノム学講座
全身性エリテマトーデス(SLE)は多彩な臨床症状を呈する全身性自己免疫疾患である。我々はSLE 122例、健常人(HC)65例における27種の免疫担当細胞のRNA-seq
dataを網羅的に取得することで、SLEの種々の臨床像を特徴づける細胞種特異的遺伝子発現パターンの同定を試みた。
発現変動遺伝子(DEGs)解析では、寛解期SLE症例対HC(susceptibility signatures)と高活動性SLE対寛解期SLE症例(activity
signatures)で異なる細胞種へのDEGsの集積パターンを認め、SLEの発症と増悪において異なる免疫システム変容の存在が示唆された。
Activity signaturesの細胞種ごとの発現変動プロファイルに基づいた階層的クラスタリングでは、高活動性SLEにおいて全細胞種横断的なtype I interferon
signal関連遺伝子群に加え、Th1, memory CD8,
NK細胞に限局した細胞周期関連遺伝子群の発現亢進を認めた。活動性ループス腎炎は、好中球の脱顆粒反応や単球の補体貪食関連遺伝子群の発現亢進で特徴づけられた。
今後はGWASデータとの統合解析も追加し、SLEの病態解明と個別化医療に向けた知見を深めていく。
キーワード:全身性エリテマトーデス、RNA-Sequencing、患者層別化
著者コメント:
この度は第六回日本骨免疫学会で研究成果を発表する機会をいただき、また優秀演題に選出いただき、御礼申し上げます。自己免疫疾患患者さんの病態解明とより良い治療戦略開発のため、さらなる研究成果を積んでいきたいと考えております。
Tong Zhang,Kaoru Yamagata,Nguyen Phuong Anh,Koshiro Sonomoto,Shingo Nakayamada,Shigeru Iwata,Yoshiya
Tanaka
The First Department of Internal Medicine,
University of Occupational and Environmental Health, Japan
【背景】Epstein-Barr virus-induced gene 3 (EBI3)は、IL-27およびIL-35のサブユニットとして知られている。サブユニットIL-27 p28およびIL-35
p35が不足すると、EBI3は小胞体(ER)に蓄積する。小胞体ストレスは、間葉系幹細胞(MSC)の軟骨形成を担う。本研究では、EBI3が小胞体ストレスセンサーを介したMSC軟骨分化への関与について調べることを目的としている。
【結果】EBI3タンパク質は、軟骨分化の初期段階で発現する。EBI3のノックダウン、過剰発現、およびIL-1βによるEBI3発現により、いずれも軟骨形成を阻害した。過剰発現したEBI3はMSC細胞の小胞体に局在した。EBI3のノックダウンにより、軟骨分化過程におけるATF6p50とp-IRE1αの各量が低下した。一方、EBI3の過剰に発現により、ATF6p50量が増加するのに対し、リン酸化IRE1αと総IRE1αの各量はいずれも低下した。
【結論】 MSC細胞は、細胞内のEBI3を介してERストレスセンサーを厳密に制御することで、軟骨細胞分化に向かう。
キーワード:軟骨分化、EBI3、小胞体ストレス
著者コメント:
EBI3が軟骨細胞分化を制御するものの、直接の分子標的は不明であった。我々は、EBI3が小胞体に局在することに着目し、小胞体ストレスとの関連を調べました。
この度は第6回日本骨免疫学会での受賞に際し、受賞研究を紹介する機会を頂いたことに感謝すると共に、今後の更なる励みにしたいと思います。
田村光1,2,3、土門久哲1,2、日吉巧1,3、前田健康2、多部田康一3、寺尾豊1,2、前川知樹2
1新潟大学大学院医歯学総合研究科微生物感染症学分野
2新潟大学大学院医歯学総合研究科高度口腔機能教育研究センター
3新潟大学大学院医歯学総合研究科歯周診断・再建学分野
マクロライド系抗菌薬エリスロマイシンは,炎症および骨破壊抑制作用を持つことが報告されているが,その作用機序は未解明である.我々はエリスロマイシンがこれら骨免疫に与える影響について,DEL-1が重要であると仮説を立て実験をおこなった.骨吸収と骨再生を解析できる新しい歯周炎モデルを野生型およびDEL-1欠損マウスに適用し,エリスロマイシンの骨免疫に対する効果を調べた.野生型マウスでは,エリスロマイシン投与によって歯周炎組織中のDEL-1発現が上昇し,破骨細胞や骨芽細胞、α-SMA陽性細胞に対して作用を示し、破骨細胞分化の抑制およびα-SMA陽性細胞の増殖と骨芽細胞への分化を促進する効果を認めた.しかしながら上記の作用は,DEL-1欠損マウスでは認められなかった.このことから,エリスロマイシンはDEL-1を誘導することによって骨免疫を制御し、歯槽骨吸収を抑制する可能性が示唆された.
キーワード:エリスロマイシン,DEL-1
著者コメント:
この度は新型コロナウイルス感染拡大が続く中,研究発表の機会を頂き,また素晴らしい賞にご選出いただき,大変ありがとうございました。本研究の将来的な臨床応用を目指すとともに,歯科領域における骨免疫学の発展に貢献できるよう努力いたします。前川先生をはじめ,ご指導いただきました先生方に厚く御礼申し上げます。
内藤龍彦1,2、岡田随象1,3,4 1大阪大学大学院医学系研究科遺伝統計学、2東京大学大学院医学系研究科神経内科学、3大阪大学先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門、4大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫統計学
HLA遺伝子を含むMHC領域は、ゲノムワイド関連解析(GWAS)でも最も多く感受性が検出される重要な領域である。原因遺伝子変異の同定(fine-mapping)にはHLA
imputation法を用いるが、従来法では希少アレルに対して推定精度が著しく低下してしまい、これはtrans-ethnic
fine-mappingを行う上で特に問題となっていた。本研究では、深層学習を用いた新規のHLA imputation法、DEEP*HLAを開発し、1型糖尿病のtrans-ethnic MHC
fine-mappingに応用した。精度評価では、DEEP*HLAは従来法よりも高い精度を達成し特に希少アレルにおける精度の改善に成功した。次にDEEP*HLAを日本人・欧米人のバイオバンクのGWASデータに適応し、1型糖尿病のtrans-ethnic
MHC fine-mappingを行った。結果、日本人と欧米人で共通して発症リスクに関連する複数のHLA遺伝子変異を同定できた。
キーワード:HLA、深層学習、1型糖尿病
著者コメント:
この度は第6回骨免疫学会で優秀演題賞に選出していただき、また研究紹介をさせていただき大変ありがとうございます。私達の開発した手法が、多様な疾患の発症に関わるHLAアレルの同定に寄与できれば幸いでございます。